入居後に認知症が進んだように見える理由

「老人ホームに入ってから、急に親の認知症が進んだ気がする…」

「良かれと思って施設に入れたせいで、症状を悪化させてしまったのでは?」

入居後の親の急な変化を目の当たりにして、このような深い不安や後悔、罪悪感を抱えるご家族は少なくありません。

久しぶりに施設へ面会に訪れた際に、「同じ話を何度も繰り返すようになった」「以前より表情や反応が薄くなった」と感じることもあるでしょう。

しかし、入居後に認知症が進んだように見えるからといって、必ずしも「施設に入ったこと自体が原因」とは言い切れません。

さまざまな要因が複雑に重なって、そのように見えているケースが非常に多いのです。

今回は、入居後に認知症が進んだように見える本当の理由について分かりやすく解説します。

急激な環境の変化による脳の混乱(リロケーションダメージ)

老人ホームへの入居は、ご本人にとって人生における最大級の環境の変化です。

長年住み慣れた自宅を離れ、

・部屋の間取りや見える景色が変わる

・毎日一緒に過ごすスタッフや周りの人が変わる

・朝起きてから寝るまでの生活の流れが変わる

など、一度に多くの変化を経験します。

認知症のある方は、新しい環境に適応するための脳の機能が低下しているため、この変化が大きなストレス(リロケーションダメージ)となります。

そのため、一時的に頭の中の混乱が強くなり、まるで「認知症が急激に進んだ」かのように見えることがあるのです。

面会の機会が減ったことで、変化に気づきやすくなる心理

在宅介護の頃は、毎日24時間一緒に過ごしていたため、少しずつの変化には麻痺してしまい気づきにくいものです。

一方、施設に入居した後は、

・週に1回、あるいは月に数回

など、限られた短い時間だけ会うようになるご家族も少なくありません。

このように間隔をあけて久しぶりに会うと、「えっ、こんなに変わっていたの?」とギャップに驚くことがありますが、実際には在宅介護の時から少しずつグラデーションのように変化していた可能性もあります。

認知症という病気そのものの自然な進行

認知症は、アルツハイマー型や血管性など病気の種類や個人差はあるものの、時間の経過とともに少しずつ症状が進行していく脳の病気です。

そのため、たまたま「施設に入居したタイミング」と「認知症のステージが自然に進行する時期」が偶然重なってしまったというケースも多々あります。

必ずしも施設での生活と因果関係があるとは限らず、病気の経過としての自然な変化である場合もあることを知っておくことは大切です。

見落とされがちな体調の変化が影響しているケース

一時的な体調不良による「せん妄」などの混乱

認知症の症状が急に強くなったように見える背景には、目に見えない体調の変化が隠れていることもあります。

例えば、高齢者に多い

・軽い脱水症状

・頑固な便秘

・尿路感染症などの隠れた炎症

・環境の変化による睡眠不足

などによって、脳が一時的に混乱する「せん妄」状態になり、認知症が悪化したように見えることがあります。

「ここ数日で急に様子が変わった」と感じた場合は、まずは体調面にトラブルがないかを確認することが最優先です。

新しく処方された薬の影響

施設に入居したことで主治医が変わり、新たに薬が追加されたり、処方内容が変更されたりすることがあります。

その薬の作用によって、日中に強い眠気が出たり、一時的に反応が薄くなったりしている場合もあります。

もし気になる変化があれば、遠慮なく施設スタッフや新しい主治医に相談してみましょう。

新しい環境に慣れて、入居後に少しずつ落ち着いてくるケースも多い

環境の変化(リロケーションダメージ)によって一時的に混乱してしまっても、多くの場合は少しずつ新しい生活に慣れていくものです。

例えば、

・施設の規則正しい生活リズムに身体が馴染む

・毎日顔を合わせるスタッフとの間に確かな信頼関係ができる

・レクリエーションなどを通して他の入居者との交流が増える

ことで、心の中の不安が軽減し、在宅の時よりもむしろ穏やかな表情で過ごせるようになるケースもたくさんあります。

そのため、入居直後の不安定な様子だけで全てを判断せず、数ヶ月単位で少し長い時間をかけて温かく見守ることも大切です。

「施設に入れたせいだ」と自分を責めすぎる必要は一切ありません

入居後の親の寂しそうな姿や変化を見ると、

「私が楽をしたくて施設に入れてしまったから…」

「あのまま無理をしてでも自宅で介護を続けていれば違ったのではないか…」

と自分を激しく責めてしまうご家族は本当に多いです。

ですが、これまで解説した通り、認知症の進行や体調の変化には本人の病気や体質などさまざまな要因が絡み合っています。

また、在宅介護をこれ以上続けることが限界になり、ご本人の安全や、ご家族自身の生活が破綻しかけていたからこそ、苦渋の決断として入居を選ばれたはずです。

その時々において、ご家族が悩み抜いてできる最善の選択をしてきたという事実を、どうかご自身でも認めてあげてください。

まとめ

老人ホームへ入居したあとに認知症が進んだように見える背景には、環境の変化による一時的な脳の混乱、病気そのものの経過、隠れた体調不良など、さまざまな理由が考えられます。

決して「施設に入れたことだけが原因」とは言い切れず、時間が経てば落ち着く一時的な変化である場合も非常に多いです。

大切なのは、気になる変化があれば一人で抱え込まず、施設のスタッフや主治医と密に情報を共有しながら、ご本人の今の状態をチームで見守っていくことです。

そして、ご家族自身も「自分の選択のせいだ」と決して責めすぎないこと。

ご本人にとって安全で安心できる環境をプロと一緒に考えながら、面会の時間を純粋な親子の時間として、その時々に合った温かい関わり方を続けていきましょう。

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