老人ホームでの金銭管理トラブル事例
老人ホームへの入居を進める際、ご家族の頭を悩ませる大きな問題の一つが「施設でのお金の管理」ですよね。
特にご本人に認知症の症状が出ていたり、高齢になって細かい計算や判断力が衰えてきたりすると、「通帳や現金はどうやって管理すればいいの?」「トラブルに巻き込まれたらどうしよう……」と不安になるのは当然のことです。
もちろん、ほとんどの施設では厳しいルールのもとで適切にお金が管理されています。
ですが、生活の場が変わることで、悪意がなくても思わぬボタンの掛け違いから金銭トラブルに発展してしまうケースがあるのも事実です。
今回は、老人ホームの現場で実際に起こりやすい金銭管理のトラブル事例を紹介しながら、ご家族が安心して対策できる具体的な予防法についてお話しします。
事例1:現金の紛失・「盗まれた」という物取られ妄想
老人ホームの現場で、実は最も多く相談されるのが「現金がなくなった」という紛失トラブルです。
・お財布をどこに置いたか分からなくなってしまった
・誰にも触られたくないからと、自分で秘密の場所にしまい込んでしまった
・自動販売機や売店でお金を使ったこと自体を忘れてしまった
こうしたことが原因で、認知症の症状(物取られ妄想)も手伝って「誰かに盗まれた!」「スタッフが持っていったに違いない!」と思い込んでしまうケースがよくあります。
ご本人にとっては本当に盗まれた恐怖の真っ最中なので、強い不安から周囲に怒りをぶつけてしまうことも少なくありません。
実際には「思わぬ場所」から見つかることがほとんど
施設スタッフやご家族が一緒に部屋を落ち着いて探してみると、以下のような場所からひょっこり出てくるケースがほとんどなんです。
・タンスの引き出しの奥や、洋服の何重にもなった隙間
・冬物コートのポケットの中
・いつも使っているバッグの底の裏地の間
そのため、本人が「盗まれた!」と大騒ぎしても、まずは周りの大人がパニックにならず、落ち着いて一緒に探してあげる姿勢が大切になります。
事例2:高額な通信販売などを勝手に利用してしまう
頭はしっかりしているように見えても、判断力が少しずつ低下している場合、ついつい不要な高額商品を購入してしまうトラブルが起きることがあります。
・テレビショッピングや新聞広告を見て、同じようなサプリメントを何度も注文してしまう
・「体に良いから」と勧められるままに、高額な健康食品の定期購入を契約してしまう
・施設では使わないような大量の日用品を通販で買ってしまい、部屋が段ボールで溢れる
ご本人には一切悪気はなく、「体に良さそうだから」「便利だと思ったから」と良かれと思って購入しているため、ご家族が後から請求書を見てびっくり、というケースが後を絶ちません。
事例3:家族間でお金の管理方法を共有していない
これは施設と本人の問題ではなく、支えるご家族同士の間で起きてしまうトラブルです。
たとえば、以下のような状態です。
・実家から一番近い長男が、親の通帳を預かって管理している
・遠方に住む長女が、日用品の買い物や施設の月額費の口座引き落としの手配をしている
・別のきょうだいが、施設との窓口や細かい事務手続きを担当している
このように役割分担すること自体は素晴らしいのですが、「今、親の口座にいくらあって、何にいくら使ったのか」というお金の流れが家族間で不透明になっていると、後から「あの使い道は何だったの?」「説明を聞いていない」と、きょうだい間での不信感やトラブルに発展してしまうことがあります。
認知症の進行に伴う金銭管理の限界
認知症が少しずつ進行してくると、悪意のあるなしに関わらず、
・施設の売店で、すでに払った支払いを「まだ払っていない」と何度も出そうとする
・お見舞いに来た孫にお小遣いを渡したことを忘れ、財布が空になってパニックになる
・今、自分がいくらお金を持っているのかの計算が全くできなくなる
といったことが日常的に起こり始めます。
本人は「自分は昔からお金の管理だけはしっかりやってきた!」というプライドがあるため、家族が無理に取り上げようとすると激しく反発されることも多く、非常にデリケートな対応が求められる部分です。
大切なお金をトラブルから守るために、家族ができる3つの予防策
1. 部屋には必要以上の現金を絶対に置かない(持たせない)
施設の売店や自動販売機で使うための現金は、必要最低限(数千円程度)にとどめておくのが一番の防衛策です。
高額な現金を部屋に置いておかないことで、万が一の紛失リスクを最小限に抑え、「盗まれた」という妄想の引き金自体を減らすことができます。
2. 入居前に施設の「お預かりサービス」のルールを確認する
多くの老人ホームでは、ご本人に代わって小口の現金を管理してくれる「預かり金制度(お小遣い管理)」が用意されています。
・毎月いくらまで施設側で管理してくれるのか
・売店や散髪代の支払いを代行してくれるか
・管理手数料はいくらかかるのか
こうした点を入居前にしっかり確認し、プロの管理システムに乗せてしまうのが最も安心です。
3. 家族間での「収支の見える化」を徹底する
親御さんのお金の管理を担当するキーパーソン(代表者)を決めたら、かかった費用の領収書や通帳のコピーなどを定期的に家族のグループLINEなどで共有し、オープンにしておくのがおすすめです。
最初から全員が把握できるように「見える化」しておくことで、家族間の余計な誤解を100%防ぐことができます。
まとめ
老人ホームでの金銭管理にまつわるトラブルは、誰かの悪意によって起きることは滅多にありません。
そのほとんどが、加齢や認知症による「勘違い」「忘却」、あるいは家族間の「コミュニケーション不足」が原因です。
だからこそ、ご本人を責めたり、施設を疑ったりする前に、トラブルが起きにくい「仕組み」をあらかじめ作っておくことが大切になります。
ご本人、ご家族、そして施設スタッフの3者がしっかり連携し、オープンに話し合える環境を作っておくこと。
これこそが、お金の不安を無くし、住み慣れた施設で穏やかに笑顔で過ごすための、何よりの近道ですよ。
もし迷ったら、いつでも私たち専門職や施設のケアマネジャーに相談してくださいね。


